東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1660号 判決 1968年11月29日
控訴人 坂口二郎
右訴訟代理人弁護士 宮下文夫
宮下勇
被控訴人 森川産業株式会社
右代表者代表取締役 森川寿
右訴訟代理人弁護士 植松伝一郎
被控訴人 斎藤産業株式会社
右代表者代表取締役 斎藤喜左衛門
右訴訟代理人弁護士 鈴木敏夫
被控訴人 信友不動産株式会社
右代表者代表取締役 荒井義雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、控訴人の被控訴人森川産業株式会社に対する請求について。≪省略≫
二、被控訴人斎藤産業株式会社、同信友不動産株式会社に対する各請求について。
控訴人が次の手形要件の記載ある約束手形二種を現に所持することは被控訴人斎藤産業の自白するところ、また被控訴人信友不動産の明かに争わないところである。(一)金額一七〇万円、満期昭和三七年四月二五日、支払地更埴市、支払場所日本相互銀行屋代支店、振出地更埴市、振出日昭和三七年二月二四日、振出人森川産業株式会社、受取人斎藤産業株式会社(被控訴人)、第一裏書人斎藤産業株式会社、日附昭和三七年二月二四日、被裏書人信友不動産株式会社(被控訴人)、第二裏書人信友不動産株式会社、日附昭和三七年二月二四日、被裏書人坂口二郎(控訴人)、(二)金額二三〇万円、その他の記載(一)に同じ、右第一、第二裏書については何れも拒絶証書作成の義務が免除されている。
そうすると控訴人は一応右各裏書のとおりに満期前本件二種の約束手形の譲渡をうけ、控訴人において呈示期間中にこれを支払場所に呈示したものと推定されるものである。
しかしながら当裁判所は、本件各手形は、斎藤産業から昭和三七年二月二四日信友不動産に裏書譲渡され、同日信友不動産より日東商事株式会社に白地式裏書により譲渡されたこと、日東商事は同日右信友不動産代表者荒井義雄をして、被裏書人欄に控訴人名を記載せしめたがこれを控訴人に交付することなく、そのまま日東商事において所持していたこと、右日東商事(代表者宮崎良雄)はこれを控訴人に対する債務弁済のため控訴人に交付しようとしたが拒絶せられ、現金にて返還するよう要求せられたので、控訴人の名義でこれを取立てようとし、右日東商事代表者宮崎良雄において控訴人の不知の間に同人名義で株式会社八十二銀行屋代支店に千円を預金して同人の口座を設け、右手形を取立委任のため振込んだが、不渡となったので、控訴人不知の間に控訴人名義で大内弁護士に委任し本件訴を提起し、その後昭和三七年五月二五日に至りようやく右事情を知った控訴人に本件手形を交付したものであると認定する。右によると控訴人は裏書の形式と異り真実は、本件手形を日東商事より満期後の昭和三七年五月二五日に交付を受けたもので右手形権利の譲渡は専ら控訴人をして日東商事のため手形の権利の行使を訴訟によってなさしめんとするものという外はない。右手形移転の経緯については当裁判所も原審と同一の見解に立つもので以上の判断については原判決書十四枚目裏第十一行より十七枚目表第二行までを引用するほか当審における証人宮崎良雄の証言の一部および控訴人本人の尋問の結果を証拠原因として附加する。右証言および本人尋問の結果中前認定に反する部分は当裁判所の措信しないところである。
そうすると控訴人の本件手形の取得は信託法第一一条に違反し控訴人は本件手形の権利者ではないものというべく控訴人の被控訴人斎藤産業および同信友不動産に対する請求は同被控訴人らの他の抗弁につき判断するまでもなく失当で棄却をまぬがれない。
≪以下省略≫
(裁判長判事 谷口茂栄 判事 瀬戸正二 友納治夫)